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カテゴリ:正平調
2010年 09月 19日
ゾウの摩耶子と諏訪子、キリンの六と甲、チンパンジーの金、銀、神(しん)。カバの出目男(でめお)…。神戸の王子動物園の名物飼育員、亀井一成さんの絵本や記録でおなじみの動物たちである
自ら世話をし、別れを体験した動物たちでもある。「亀井一成さんという人は、まことに深いかなしみを持った人なんだなァ」。児童文学者の灰谷健次郎さんは、文庫本の解説にそう書いている 灰谷さんのいうかなしみは、動物のいのちに寄り添うことにとどまらない。そこに人間のどうしようもない業のようなもの、いのちに対する人間のおごりを見て、深いかなしみを覚える。亀井さんとはそういう人ではないかと書く 亀井さんは涙もろい人という印象が残る。話しながら人を泣かせ、自分も目を赤くした。雌のチンパンジーの赤ん坊チェリーを引き取り、家族ぐるみで育てた記録「チェリーと双子の弟たち」を読む。成長に泣き、しかりつけて一緒に泣き、病気が治って泣き、いろんな場面で泣いている 本を開くと、亀井さんの声が聞こえるようだ。飼育員は言葉の通じない動物に優しく話しかけ、しぐさや体の汚れ、ふんを通して心を通わせます。人間はどうですか。言葉があるのに交わさず、気持ちを通わせず、ぎすぎすしていませんか 亀井さんの悲報を聞き、動物園で元気に暮らすチェリーに会いたくなった。優しい瞳が、本当の娘のように亀井さんに似ているチェリーに。 正平調 神戸新聞 2010年9月16日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 09月 05日
大山鳴動してネズミ1匹という言葉がある。世間を騒がせ過ぎたという批判もあるだろう。飛び出したのは1人でなく、2人だった。その方がよかったと受け止めるしかあるまい
民主党代表選がきょう、告示される。対決回避に向けた直接会談が物別れに終わり、菅直人首相と小沢一郎前幹事長による一騎打ちになる。戦うからには、論戦を堂々と展開してほしい それにしても散々、気をもませた。立候補の意思を表明した両者の間を、1羽の伝書バトが何度も行き交った。オリーブの葉をくわえた休戦の使者に見えたこともある。「白いハトはいくつの海を越えて飛ぶのか」とボブ・ディランは歌う。何のために飛んだのかと、伝書バトには問いたい 「トロイカ」という言葉もよく耳にした。トロイカは、ロシア語で3頭立ての馬車のことをいう。3頭の馬が横一列に並んで引くのが、ロシア伝統の形だという。1頭でも違う動きをすれば、馬車はたちまち安定を失う 菅、小沢両氏と鳩山由紀夫前首相によるトロイカ体制を大事にしていきたい。そのメッセージが受け入れられず、ハトはいま「オザワ、オザワ」と鳴く。確か、その前は「カン、カン」と鳴いてはいなかったか おせっかいなハトは飛び去り、トロイカも当分、出番がなさそうだ。日本の明日を考える政策論争を聞けるなら、この選挙も悪くはない。ただ、無意味なドタバタはもうたくさんだ。 正平調 神戸新聞 2010年8月27日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 08月 31日
「乱」の文字がこの人ほど似合う政治家はいないだろう。民主党の小沢一郎前幹事長のことである。不思議な人だ。政界が混迷を深めるほど、存在感を増す
その小沢氏が、民主党代表選に名乗りを上げた。出馬を求める声が強く、動向が注目されていた。党内最大の集団を率いる実力者だけに、菅直人首相は心穏やかではないだろう 「剛腕」の異名を持つ。気に入らない意見は断固、退ける。小沢氏は決して調整型の政治家ではない。「壊し屋」とも言われる。自民党を飛び出して以来、新生党や新進党、自由党と政党を幾つもつくっては壊した。これまでの小沢流政治は「乱」の連続だった 中国に「治世の能臣、乱世の姦雄(かんゆう)」という言葉がある。太平の世なら有能な役人だが、乱世なら策略にたけた英雄になれる、という意味だ。雇用の不安や円高、株安…。国会はねじれ状態。今が「乱世」なら、時代は「能臣」以上に小沢氏のような「姦雄」を求めているということか ただし、勘違いしないでほしい。小沢氏が「政治とカネ」の問題で幹事長を辞めたのは、わずか3カ月前だ。国民は釈明の言葉をほとんど耳にしていない。不信を剛腕で一掃できると思ったら、大きな間違いである 庭の隅で秋の七草のオミナエシが黄色い花を咲かせている。花言葉は「約束を守る」。そのささやきを政治家は胸に刻んでもらいたい。国民不在の「乱」ならば暑苦しいだけだ。 正平調 神戸新聞 2010年8月27日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 08月 11日
キリストや聖母マリアなどを描いた聖像を「イコン」と呼ぶ。ロシアでは一般家庭でも飾られ、人々が祈りをささげる
イコンには、金属板に肖像画をはめこんだものがある。戦時中、広島市内に住んでいた亡命ロシア人、フョードル・パラシューチンさんの自宅の壁にも、きらびやかな金属製イコンが飾られていた 65年前のきょう、広島に原爆が落とされた。太陽の表面温度に匹敵するほどの熱波が都市に降り注ぎ、約14万人の命を奪った。その地獄絵図の中に、洋服店を営むパラシューチンさん夫妻もいた 2人は焼け崩れた自宅の下敷きになった。外にはい出し、抱き合って無事を喜び、がれきの下からイコンを拾い上げる。奇跡的に命が助かった感謝をささげたかったのだろう。しかし、キリスト像と聖母子像の顔は焼けてなくなり、金属板だけが残されていた 戦後、神戸に移り住んだパラシューチンさんは、北野町に住居を構えた。26年前に病シしたが、晩年、神戸ハリストス正教会の酒井満神父(80)に被爆イコンを託した。そのイコンは今、広島県立美術館で展示されている 原爆投下を命じたトルーマン米大統領は「歴史始まって以来、最大の出来事」と語ったという。外国人などさまざまな人たちを巻き込んだ惨状に想像が及ばなかったのか。命を奪われ、傷ついた一人一人に、かけがえのない人生があった。顔を奪われたイコンが今もそう語りかける。 正平調 神戸新聞 2010年8月6日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 08月 01日
夏の音は郷愁を感じさせる。せみ時雨、打ち上げ花火、寄せては返す波。聞くうちに、子どものころの記憶がよみがえる
姫路城の周辺に、城下町のたたずまいを残す一角がある。「キン、キン」と硬質な音が通りに漏れる。金づちで熱した玉(たま)鋼(はがね)をたたく、「火箸(ひばし)風鈴」を生む音だ。軒先につるすと澄んだ音色と余韻が、夏に涼感を演出する音として生活に溶け込む 同じ城下町に最近、音の新顔が加わった。甲高い汽笛のような音色。ほとんど聞かれなくなった「豆腐ラッパ」である。誘われるように家々から人が顔を出す。豆腐を載せたリヤカーの周りに人だかりができる 豆腐といえば専門の店や八百屋の軒先で、なみなみと張った水の中でゆらゆら揺れていた記憶がある。最近はそんな光景も少なくなりつつあるが、たつの市の武内食品が、昔ながらの商いを城下町の一角で復活させた 主な卸先だった八百屋の閉店が相次ぎ、窮地に陥った。そこで軽トラックによる行商へと転換する。これが当たった。出店した姫路の店から半径3キロ以内はリヤカーで回るようになり、昔を懐かしむお年寄りらが待っていてくれる 客の反応が直接届くようになり、つくり手のこだわりも自然と深くなった。創業100年の店は、今年から播磨地方に伝わる在来種を自家栽培した大豆での豆腐づくりにも挑戦する。音色と滋味が夏の記憶として城下町に受け継がれていくだろうか。 正平調 神戸新聞 2010年7月27日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 07月 22日
作家のサンテグジュペリは長く郵便飛行の仕事に就いていた。小さな飛行機で危険を冒して郵便物を運んだ
北アフリカの荒涼とした砂漠の上を飛び、南米の険しい山脈を越える。狭い操縦席で与えられた使命に応えながら自己を見つめた。「人間であるとは」と書く。「すなわち、責任を持つということである」 飛行機乗りは命がけの仕事だ。同僚が行方不明になれば捜索に出かける。サンテグジュペリ自身、砂漠で何日も救助を待ち続けた経験がある。そんな日々が彼にこう言わしめた。「職業の偉大さとは、おそらくなによりもまず、人間を結び合わせることだ」 こちらは電車に乗って乗客の命を運びながら、会社への不信感を募らせていたのだろうか。昨日、防護無線の予備電源から部品を抜き取ったとして、業務妨害などの疑いで、JR西日本の車掌が逮捕された 警察の調べに対し、49歳の車掌は「仕事がしんどく嫌になった」と会社への不満を口にしているという。だが執拗(しつよう)な犯行は、単に会社を困らせたいというだけではない、もっと根深いものを感じさせる。例えて言うならば、組織への憎しみのようなものだ JR西の社長は昨日の会見で「一人一人を孤立させないチームワークが必要」と繰り返した。人と人が結び合わない職場では、責任感も使命感も生まれようがない。脱線事故後生まれ変わろうとしているJR西だが、再生の道は遠く険しい。 正平調 神戸新聞 2010年7月22日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 07月 17日
1枚の絵に出合った。100号のその大作は、展覧会場でもひときわ目を引く存在だ。サッ風景な街の中で仁王立ちする、作業服の1人の若者。背後にある建物は小さく、逆に人物は異様に大きく描かれている
「抵抗の画家」と呼ばれた松本竣介(しゅんすけ)が1942(昭和17)年に描いた自画像「立てる像」だ。日本の近代美術の伝説的な作品で、兵庫県立美術館で開催中の「名画100年・美の競演」で公開されている この絵を完成させたころ、松本は岩手県から東京に出て独自の画風を追求していた。都市の風景を描いた作品が多い中でこの絵は異彩を放つ。他の作品にない特別な感情が込められているようだ 当時、日本は戦争に突入し、国家総動員法で物資が統制されていた。画家は絵の具などの提供と引き換えに、戦意高揚の絵を描くよう求められた。軍部には表だって逆らえない。しかし、時代に流されたくはない。そんな画家の苦悩と無言の抗議が伝わる その横には、神戸を代表する画家、小磯良平が同じ時期に描いた代表作の「斉唱」が掲げられている。素足の女学生たちが楽譜を手に歌う情景は、何かを祈るようである。松本とは対照的に多くの戦争画を手がけた小磯だが、暗い世相の中でひそかに救いを求め、絵筆を取ったのか 時代の流れに個人は無力かもしれない。それでも自分の心は大切に守りなさい。二つの絵は、そう語りかけているように思えた。 正平調 神戸新聞 2010年7月17日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 07月 12日
菅直人首相や民主党には、きついお灸(きゅう)といえるだろう。参院選で、与党は過半数割れの敗北を喫した。政権交代から10カ月間の有権者の失望が強くにじみ出ている
多くの人を納得させるには、物事を断言することだ。哲学者ニーチェはそう書いた。どんなに言葉を尽くしても、説得力がなければ人の心には届かない。それを証明するような結果だったともいえる 一時は60%を超えた内閣支持率が1カ月で20ポイントも落ち込んだ。失速の原因は消費税をめぐる菅首相の言動とされる。自民党が掲げた「税率10%」を「参考にする」と発言した。財政の窮状を強調し、「良薬は口に苦し」と、あえて負担増を訴える戦術に出た。だが、言葉の一貫性に疑問を持たれた 誠実に語ろうとしたのだろう。「改革の痛みに耐えて」と叫びながら選挙に勝った小泉純一郎元首相の例もある。ただ、格差拡大という深い痛みを招いたが、小泉氏の言葉は断言する強さがあった。そこが、発言の「ぶれ」を批判された菅首相との差ではないか 「自分の意見の正当性をあれこれ論じれば、多くの人はかえって不信を抱く」とニーチェは説く。「税率をすぐ引き上げるとの誤解を与えた」。首相がそう釈明するたび、じわりと支持を減らした またも政治家の言葉が迷走し、後には衆参両院のねじれという構図が残った。日本の未来をどう描くか。きょうからは、前向きの議論を聞かせてほしい。 正平調 神戸新聞 2010年7月12日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 07月 02日
「人情というものは、いまでいう連帯感のことなのである」。東京・浅草生まれの作家池波正太郎の短文に、そんなくだりが出てくる
タイトルは「東京の下町」。市井を愛した作家の下町考があふれる一文だ。「人びとは、よほどの用事がないかぎり、自分の住み暮らす町からめったに出て行かなかった」。買い物は地元商店街ですます。お金が町の中をぐるぐる回り、互いの暮らしを支える。一種の循環社会だ 神戸の下町に育ったせいか、人のにぎわいの中にいると安堵(あんど)感を覚える。下町の中心にあるのは、何と言っても商店街だろう。通りに面していろんな商品が並んでいるのを眺めていると、ワクワクしてくる。つい財布のひもも緩くなる 「新鮮な八百屋があった。魚屋があった。花屋があった」。そうつづりながら、下町を散策するのは作家の梶井基次郎だ。「眼(め)は眼で楽しんだ。耳は耳で楽しんだ」。こんな表現に出合ったら最後、たまらなく町に出かけたくなる ぐるっと見渡して、元気がいい下町といえば神戸の長田だろうか。そびえ立つ「鉄人28号」を核に、地元の商店主らが知恵を絞って地域おこしを仕掛ける。昨日発表された路線価でも健闘ぶりがうかがえた 阪神・淡路大震災の被害が大きかったがようやく人口も戻ってきた。商店街にお金がぐるぐる回って、人々の気持ちもぐるぐる回って。その先に、連帯感に包まれた町の光景が見える。 正平調 神戸新聞 2010年7月2日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge 2010年 06月 27日
神戸市東灘区を流れる住吉川に今年もホタルが舞った。草むらを漂う、青白い光。手に取ろうとする子どもたちを大人がそっとたしなめる。そんな姿を目にする
都市部でホタルが生息する地域はそう多くはない。住吉川のホタルは、地元自治会などでつくる「住吉川清流の会」と広島県の自然保護団体が協力して、10年以上も幼虫の放流を続けた努力のたまものだ 川沿いの住民も、地道な取り組みでホタルがすみやすい水辺の環境を守ってきた。散歩がてらお年寄りが空き缶などを拾う。夏は川の中に入ってゴミを集める人もいる。「清流の会」の清掃活動は親子連れの参加が目立つ。地域の川を慈しむ。その思いが大人から次の世代へと受け継がれる 大雨の夜、川べりを歩いていると、ホタルがすむ川面を突然、黄色い光の点滅が切り裂いた。警報発令を知らせる回転灯である。2年前に灘区の都賀川で起きた増水事故を教訓に設置された 六甲山系の傾斜地から海に流れ込む神戸・阪神間の河川は、普段は穏やかでも、豪雨になれば牙をむく。72年前の7月に起きた阪神大水害では住吉川流域も泥の海となり、多くの命が奪われた 川沿いの住宅地には、山から流れ出た巨石が残る。惨状を記録した碑もある。梅雨はこれからが本番。自然を慈しむだけでなく、恐れ、備えることの大切さも子どもたちに伝えたい。ホタルの光を追いながら、そんなことを考えた。 正平調 神戸新聞 2010年6月27日 創価学会 地球市民 planetary citizen 仏壇 八葉蓮華 hachiyorenge < 前のページ次のページ >
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