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芸に生きる人のすごみ・・・ 正平調 八葉蓮華
2008年 10月 10日
芸に生きる人のすごみ・・・ 正平調 八葉蓮華
役者をしたいと打ち明けたら、父は笑い飛ばした。「お前のは顔じゃなくてガオだから、やめとけ」。なんとも乱暴な父の一言を激励の「はなむけ」と受け止め、芝居へ身を投じる◆それから五十年余り。個性的な俳優として人気を集めた緒形拳さんが、亡くなった。「顔」に頼る役者なら、すぐ色あせる。演技を磨き、骨太であろうとした役者人生は、父の「はなむけ」に対する息子の答えだろう◆笑顔の裏に怖さが潜む。怖さの陰に優しさが見える。優しさの下から悲しさがのぞく。「復讐(ふくしゅう)するは我にあり」や「鬼畜」などで演じた男の存在感は、際立つ。複雑な心模様をこれほどリアルに演じられる人はそういない◆新国劇で基本を鍛えられた。大御所の辰巳柳太郎や島田正吾は「小さな芝居はするな」と教えた。小手先の演技になるなとの戒めだ。男くささに満ちたその劇団も今はなく、遺伝子を継ぐ緒形さんは鬼籍に。一つの時代に幕が下りた感がする◆連続ドラマ「風のガーデン」の撮影を終えた直後と聞いて、三十年前に急死した落語家六代目三遊亭円生のことを思いだした。体調の悪さを笑顔に包み、二十分ほどの高座を務めたところで、倒れた。芸に生きる人のすごみを実感した最期である◆緒形さんの最終章にも感じ入る。昨日が初回だったドラマで、末期医療に取り組む老医師を演じる。自らがんの闘病中とだれにも告げず、つらさを笑顔に包んで撮影に臨んだのだろう。その人らしく生きる。末期医療で大事な点だが、緒形さん、「ガオ」に始まる長い役者人生を、あなたは見事に生ききった。 正平調 神戸新聞 2008年10月10日 八葉蓮華、Hachiyorenge
by hachiyorenge
| 2008-10-10 20:52
| 正平調
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